7月13日

家を出ると、ベトナム人(たぶん)の若い男がノーヘルで原チャリをふたり乗りして通り過ぎていった。インドでは一家4人が原チャリ1台に乗っているのを見たが、こう暑いとそういうことになっていくのかもしれない。もうこの街に住んで8年が経つが、半分くらいいる移民の内訳もちょっとづつ変わってきた気がする。

夜、ベランダに出て煙草を吸っていると、向かいの丘のてっぺんにある煙突から出る煙が、そのまま垂直に立ち上がる白板のような大きな雲になっている。薄墨色の空にルネ゠マグリット的なのっぺりした白い雲。この光景も見慣れたものだが、いまだに、煙突がゴミ処理場のものなのか火葬場のものなのか、そして本当に煙がそのまま雲になっているのか、わからないままでいる。それはマンガの吹き出しにも見える。

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7月12日

ちゃんと夜寝て朝起きることにしようと昨晩12時に寝て8時に起きたら一日中時差ぼけと夏バテが一緒に来たような怠さで、二回昼寝をしてやっとまともになった。

シャンプーを変えてだいぶクセ毛が収まってきてよかった。ルベルというメーカーのイオセラムというシャンプー&トリートメントを使っている。

夜、青椒肉絲としらすの茶碗蒸しを作った。茶碗蒸しは出汁ではなく水と塩を溶き卵と合わせるだけのレシピで、蒸し上がったものに醤油とゴマ油を垂らして食べる。出汁を使わなくてもじゅうぶんおいしい。

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7月11日

大前さんと遊んだ。上野で合流して公園を北に抜けて谷中墓地や千駄木の商店街をひたすら歩きながら話す。彼が東京に来てから半年にいちどくらい、いつもこうして会っている。たぶんもうこんな日は夏が終わるまでこないだろうなという涼しい日で、歩いていて気持ちがよかった。

彼は前会ったときから骨格ごと変わったんじゃないかというくらい姿勢がよくなっていて顔もすっきりしていた。僕がこないだ話した、慢性的なタンパク質不足のひとが多いらしく、運動するかしないかにかかわらずプロテインは摂ったほうがいい(吸収力を上げるミネラル、ビタミンとともに)ようだという話を受けて、毎日プロテインを飲んで運動もしているらしい。僕は禁煙できずにいるという話。

『文藝』に載った、彼のおじいさんの戦争体験についてのエッセイがとてもよかったので、その話もした。ただ、自分の体と言葉の距離が失調すること、ある種その暴力的な状態を引き受けることが大前さんの小説の強さであるのもわかるが、それだけだと大変そうだなと思うから、ちぎって投げるような文章も並行してあるといいと思うと言う。彼もそのつもりで、だから最近日記を書き始めたそうだ。

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7月10日

家から駅に向かう道に台湾素食の惣菜屋さんがあって、前からちょっと気になっているのだが、この炎天下に軒先のテーブルにそのままちまきを並べていて、怖いのでまだ食べられていない。

コーラを買いにまいばすけっとに入ると、聴いたことのあるジョージ・ラッセルの曲がピアノトリオで演奏されたものが、冷蔵庫の作動音の向こうでうっすら鳴っている。前はセロニアス・モンクのEpistrophyがかかっていて、知らない曲だったのでその場でShazamで調べた。あの感じでモダンジャズがかかっているのがまいばすけっとの数少ない嬉しいところだと思う。これ自体あまりに夜電波的だが。

夜は黒嵜さんと『羅』の刊行記念トークをツイッターのスペースで配信する。妻は妻でオンラインミーティングだったので、僕は寝室でベッドに腰掛けて、居間からもってきたスツールに飲み物を置いて喋っていた。

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7月9日

シットとシッポの収録を終え、事務所を出て外苑前駅まで戻る。駅の交差点の角に煙草を売る酒屋さんがあって、その軒先はふんわり喫煙可になっている。禁煙中なので煙草が手元になく、初めて店のなかに入ると、棚はほとんど空っぽで、薄暗く、カウンターに座る40代がらみの男にキャメルの5ミリのメンソールはありますかと聴くと、ないと言われる。店の外に出ると、外から直接煙草が買える、いまはもう閉めきられた窓のとことにアメリカンスピリットのパッケージが掲示されており、店内に戻ってアメスピならありますかと聞くと、自販機にあるものしかないと言いながらカウンターから出てきた。店外の自販機にタスポをかざす。僕が財布から1000円札を出し差し込み口に入れていると彼は立ち去り、旧札を持って戻ってきた。それでようやくアメスピの5ミリのミントとビックのライターを買うことができて、直射日光を浴びながら火をつけた。初めて吸う銘柄で、ミントはメンソールとはまた別のものらしく、舌先にうっすら甘い味がした。

いろいろ思うところあり、日記のサブスクをやめて無料公開することにした。ちょうど収録でも話したのだが、ひとりで完結するプロジェクトでお金をもらっていると、小さな焦燥感や小さな申し訳なさでなんだか体が縮こまっていく感じがする。日記なんて、文章それ自体はわざわざ買うようなものではないし、たとえばそれが本になったりして複数のひとが関わって初めてプロダクトと呼べるものになるのだと思う(日記に限った話でもないかもしれない)。今後はここでは購買・講読したひとだけが読めるというかたちはやめて無料公開にして、気が向いた方だけギブアンドギブの投げ銭をしてもらうための箱を設置しようと思う。

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サブスク講読者のみなさまへ

お世話になっております。
このたび、日記を有料にするのをやめ、今後は無料公開することにいたしました。
いまさらながら日記にお金をいただくのもどうかなと思ってのことで、なにより僕自身無料のほうがずっと書きやすいことに気づいたからです。
これからこちらでおひとりずつ解約の手続きをさせていただきます。
あらためてこれまでご購読いただきありがとうございました。
日記は今後も続きますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

福尾匠

7月8日

立教の日。大学の近くにあるバーガーキングでチーズワッパーを食べる。やっぱり関内のお店のほうが同じメニューでもずっとおいしい気がする。前回はプラトンの『パイドロス』を解説して、今回はそれをデリダがどう読んだか解説する。200人弱の、もう急に何か聴かれるかもしれないという警戒もまったくない、静かで清潔な、21世紀生まれの学生達に。

妻と歩いてデニーズに晩ご飯を食べに行った。彼女は焼いた香味野菜が載ったハンバーグを、僕はポークステーキを食べて、同じミニ抹茶パフェを食べた。ポークステーキはよくできていたが、付け合わせで熱い鉄板に千切りキャベツが載っているのはどうにかしたほうがいいと思った。

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7月7日

髪がだいぶ伸びてきて、しかも最近もともとのクセ毛が強くなってかなりうねっている。短くしようかとも思うが、去年の夏にかなり短くしてそれもなんだかしっくりこなかったし、ちょっと長めでまとまりのある感じになるといいなと思うのだが、こうもうねうねだとそうもいかない。シャンプーが合ってないんじゃないかと思い、Amazonの購入履歴から今使っているシャンプーの名前をGeminiにコピペして、これを使っているのだがクセ毛で困っていると聞くと、いくつかおすすめのシャンプーを教えてくれたので、そのうちひとつを注文した。解答にはシャンプーをして軽く水を切ってからコンディショナーをつけて、3分ほどおいておくといいと書いてあって、風呂に入るときにその通りにしたら、乾かしてもいつもよりずっと髪がまとまっていた。洗い方が間違っていたのだ、買わなくてもよかったのかと思った。でも買ってよかったのだと思う。

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7月6日

昨日の日記を書く前は、もうなんか書きたくないな、やめちゃおうかな、意味ないし、と思っていたのだが、書いてみると書けた。書いたあとに、そうか、帝国が終わって日記が始まるんだなとツイートした。春樹の「駄目になった王国」という短編があるが、ウィトゲンシュタインもカフカも駄目になった帝国で日記を書いてたのだ。いろいろ頭のなかで結線してきて、まだ先があるんだと思う。とはいえこれも一面的な考えだな、とそのすぐあとに思った。大日本帝国が植民地で日本語の日記を書かせていたように、帝国の日記もあるのだ。

ちょうど、献本された『文藝』をめくっていると、大前粟生さんの、毎晩眠るたびにうめき声を上げるおじいさんのエピソードから始まる、彼の戦争体験に思いをめぐらし従軍作家の文章を読む、力の入ったエッセイがあった。

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7月5日

ここ最近気づくと、ウィトゲンシュタインの日記、アドルフ・ロースの『装飾と犯罪』、そしてホフマンスタールの『チャンドス卿の手紙』と、読書ラインナップに世紀転換期のウィーンが食い込んできている。と、この一文をGemini 2.5pro(僕はGemini派なのだ。双子座なので)に投げてみると、きれいにウィーン・モダニズムの社会的背景と言語への不信を結びつけて説明してくれた。ちょうど昨日から、最近何かとたとえに使っているカフカの『城』を光文社古典新訳文庫版で読み返していて、ウィーンではなくプラハで活動したカフカも同じ時期に二重帝国の捻れに飲み込まれた書き手ですねと聞くと、それもきれいにまとめてくれて、満足する。それはAIチャット的としかいいようのない、慰めに満ちた満足だ。たしかに、帝国が崩壊しナショナリズムが台頭し、美的なものが飽和し、言葉がウイルスのように増殖する100年前のウィーン/プラハで、書いたり作ったりするって何なのかと、人生全てを使って考えた彼らに立ち返りたい気分なのかもしれない。

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