11月6日

ドトールの喫煙ブースに入ると、もう腕落としちゃうしかないんじゃない、でもあいつ腕落としたら脚落とすタイプかもという声が聞こえてギョッとして、あまりそちらを見ないように煙草に火をつけた。台に肘を置いて向き直るように視野の端で声の主を見ると、金髪にフェイクファーの黒いパーカーを着た女性が壁に背をもたせかけてしゃがんで電話していた。真っ白の厚底スニーカーから鋭角に飛び出した日焼けした膝が黄ばんだ照明を受けて光っている。いずれも誇張されたシルエットの黒と白で挟んで、脚を細長く見せるためだけに選ばれたような格好だ。服を着ていない部分を見せるために服を選ぶというのは僕にとっては尋常ではない感じがした。まさか本当に腕を切り落とす話をしているとも思えないが——たぶんリストカットをやめられない知人の話でもしているんだろう——とはいえ水商売とかですらなさそうな非カタギ的な服装だし、なんだってここらの喫煙ブースはそういうろくでもない話をしているやつばかりなんだと思った。こないだはコメダに詐欺にあった「社長」と彼をなだめているんだかからかっているんだかわからない「マネージャー」がいたし、いつかはこのドトールであいつも殺人教唆で7年くらったからなあと、高校の部活仲間を思い出すみたいに話しているおじさんがいた。時代の闇の象徴とされるような突発的な暴力とは違う、分厚い歴史のなかで醸成される悪や暴力もある。そういうもののほうが僕にとっては異質に感じられる。喫煙席から喫煙ブースへの移行にともなってその密度が増しているのだ。人を馬鹿にしたような小ささのセリーヌのバッグを提げてその女性が出て行った。

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カテゴリー: 日記