日記の続き#9

#7の続き。こういう話をすると、いつもベケットの『モロイ』という小説のある場面を思い出す。この小説でベケットは徘徊と錯乱という行動と思考にまたがる彷徨いのなかで、ほとんど段落の切れ目もなくびっしりとページを埋めるモロイの独白を書いている。そのなかでモロイが4つの小石を拾って、それを順ぐりにまんべんなく舐めるにはどうすればよいのかと思案する場面がある。見た目では区別できない4つの小石がある。そして上着とズボンにふたつずつポケットがある。まず左の胸ポケットに4つ石を入れて、そこからひとつ取り出してそれを舐め終わると右の胸ポケットに入れる。これを4回繰り返し、今度は逆方向にそれを行う。しかしこれだと石を舐める順番をコントロールできない。今度は4つのポケットにひとつずつ石を入れる。右の胸ポケットから取り出し、舐めたものを左胸ポケットに入れ、石がふたつになったそのポケットからひとつ取り出し、舐め終わったらズボンの左ポケットに入れる。しかしこれだと同じひとつの石がただ循環している可能性を排除できない。ポケットに入れるのと交代でもとある石を口に入れればいいじゃないかというツッコミはなしだ(立て続けに舐めるわけではないということにしよう)。あるいは、それぞれのポケットに入れた石を舐め終わったらもとのポケットにそのまま戻し、次は別のポケットのものを舐めればいいじゃないかというツッコミもなし。さっきどこから出したか覚えておく必要があるからだ。このふたつの想定反論とその論駁は何を意味するのか(次回へ続く)。