3月17日

デエビゴを飲み始めて劇的と言うほかなく生活リズムが変わって、あまりにあっさり変わるので自分はやはりバカなんじゃないかとさえ思っているのだが、一点、これまでほとんど見なかった夢を毎晩ふたつずつくらい見るようになり、しかもそれがことごとく悪夢である。といってそれが嫌なわけでもなく、GABAのチョコや安眠を促進する乳酸菌飲料が流行るたびに寝れるが悪夢を見るようになると言われているし、街で盛大に痰を吐いているおじさんを見てしまったくらいの、まあ、そういうものだよなと思う程度のことだ。それに内容もすぐ忘れてしまう。ひとつだけ覚えているのが、木のまな板からはみ出るくらい大きな、チョウザメのように表面がぬめっとした、黄色い魚を捌くことになっていて、頭を落とすためにエラをつかむと兜を脱ぐようにガバッと頭が外れて、その下からひとまわり細い頭が出てくる。ひるんでいると後ろから講師のようなひとが、それは「ネコノカシラ」という魚で、そういうふうになっているのだと言うので、僕は、ウマヅラハギというのは聞いたことがありますが、ネコノカシラは知りませんでしたと言った。

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3月16日

夜中2時半に起きて、朝寝る黒嵜さんと『非美学』ゲラ検討の2回目。僕は彼と「ひるにおきるさる」というメディア(?)をやっている(?)わけで、謎の後ろめたさもあるがともかくこの時間であればゆっくり話すことができて、こないだ同様5時間喋っていた。コメントをもらったのは第2章で、思えば、この章の原型の原型の原型は、2016年の秋に青山学院大であった表象文化論学会で発表したもので、そこには友達になったばかりの黒嵜さんも聴きに来てくれていたのだった(それが論文になり、博論に組み込み、書籍化される。それぞれ大きく書き換わっている)。僕は24歳で、黒嵜さん(28歳だ)と今村さんとろばとさんが一番前の席に座ってニコニコしていたのを覚えている。ひふみさんや大岩さん、いぬのせなか座の山本さん、鈴木さん、なまけさんに会ったのもたしかこのときが初めてだった。夜中、黒嵜さん今村さんひふみさんと行き場をなくして、僕はホステルのようなところを取っていて——当時まだ大阪に住んでいた——その狭いラウンジでしばらく喋っていたのだがそこで眠れるわけでもなく、彼ら3人は寝る場所を見つけるのが大変だったとあとから聞いて申し訳なく思ったのだった。

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3月15日

午後が余生のようで、新しい文章を書こうとしたがぜんぜん進まなかった。早起きのせいかもしれないし、隣の客の会話がうるさかったのかもしれないし、そもそも何が書きたいかわかっていなかったのかもしれない。しかし何が書きたいかわからないと書けないというのも変な話だ。日記を書いても普段の文章を書くのが楽にならないのは、ずっと謎としてあって、本当はなんにも変わらないはずなのだ。ずっと背負っていた博論本を書き終えてもエディタを開いたときの切迫感は変わらず、4月からフリーランスになることだし、このあたりで文章を書く手前にあるもの(あるべきと思っているもの)の整理をするべきなのかもしれない。オーバースペックというか、ガタピシしているというか、でもそれは同じことだろう。

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3月14日

起きてから昼に昨日の日記を書くまでのあいだに校正を進めて、それでとりあえず全体を一周するのが終わった。あとは付箋を貼ってペンディングにしている箇所を中心にもういちど見直して再校に回す。日記を書いてもまだ11時半で、これまでならまだ寝ている時間に仕事も終えてまっさらな一日がそのまま残されていることに嬉しくなった。早起きは素晴らしいと思って、discordに「早起きクラブ」というサーバーを立てて、誰でも来てくださいとツイッターで告知をしていると、3日早起きしたくらいではしゃいで子供みたいだと妻に言われた。時間がありすぎて夕方には何をしていいのかわからなくなり、本を読むためだけに珈琲館に行って、ミートソースパスタを作って食べてデエビゴを飲んで9時には寝た。

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3月13日

夕方から元町で散髪。早く着いたので前から知ってはいたが入ったことのない、山の手に上がる坂の入口にある小さな古着屋に寄ってみた。色が綺麗だと思ったアメリカ湾岸警備隊のシェルジャケットやジバンシィのシャツを試着させてもらうが、どうもシルエットが野暮ったくなってしまう。ハンガーに力なく掛かった、茶色の太い畝がついた薄く柔らかい生地のコーデュロイジャケットのしっとりした感触が気になって羽織ってみる。デニムジャケットのような形で丈が短く、ゆったり作られた——もともとXLなので——袖が前腕に向かってしなだれる。内心もう買おうと決めて鏡の前に立っていると、店員に90年代のディーゼルですねと声をかけられる。いまのディーゼルがいいなと思ったことはないけど、これはいいですね、形がかわいくて、軽いしと言う。COMOLIやDAIRIKUからそのまま出ていてもおかしくない。いい買い物ができた。古着屋で古着を買うなんて何年ぶりだろう。買い物に来られたんですかと聞かれて、すぐそこの店に髪を切りに来たんですと言ったが、彼はその美容院のことを知らなかった。美容院で何か買ったんですかと聞かれ、すぐそこの坂の入口にある古着屋に寄ったんですと言ったが、彼はその店のことを知らなかった。

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3月12日

これだけ毎日いくつかの決まった場所で仕事をしていると店員だけでなく客にも、またこのひとがいるなと思うことがある。ドトールに入って、広く使えるのでいつも座る8人掛けの大きなテーブルに着くと、向かいによく見る、女子高生の制服を着て膝までのブーツを履き、短いおかっぱのウィッグを着けたおじさんが座っていた。いつも本を広げて熱心にノートを取っているので、資格の勉強かなにかかと思って見ると、高校日本史の便覧を見ながら問題集を解いていた。本当に高校生なのかもしれない。僕とかわりばんこに喫煙ブースへ席を立っていた。

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3月11日

アパートの周りに足場が張り巡らされていて、速い雲が横切ったようにときおり作業員の影が部屋を渡る。デエビゴを飲み始めてからどうしてか薬を飲む前から夜になると眠たくなるようになり、そのままの勢いで薬を飲んで朝起きる。デエビゴは眠たくする薬ではなく眠たくなくなくする薬だということだが、いままで夜中起きていたのは、眠たくなっていなかったからではなく、眠たくなっていたのだがそれを紛らわせていたのかもしれない。朝起きると、時間がたくさんある。だからしばらく作業をして、それから風呂に入って朝ご飯を食べて、また作業をする。そうすると昼頃になって、これまで日記を書いていたような時間になり、いま、12時58分、日記を書いている。これはちょっとした革命で、昼過ぎに昨日の日記を書くというここ3年の習慣と朝起きるという新たな習慣(になるといいが)が組み合わさると、まだ日記を書いておらず、昨日から今日になっていない時間を、そのまま仕事に使えるのだ。これまで昼に起きてから日記を書くまで今日が始まらない気がして、同時にまだ始めたくない気がして、ぐずぐずした時間だったが、仕事は昨日でも今日でもない時間にやればいいのだ。

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3月10日

校正の続き。「韜晦」とか「馴化」とか、そういう語彙にルビを入れる提案がなされていて、すべて拒否している。なんでも読めればいいというものではない。読めない漢字がちらほらあるほうが、むしろ読めないことに対する神経質さが和らげられるだろうし、漢字が読めれば読めるわけでもない。というのは、ここのところ立て続けに柄谷行人の『日本精神分析』と山城むつみの『文学のプログラム』を読んだからかもしれない。漢字かな交じり文、あるいは訓読は、中国語を書くかのように日本語を読む(ものとして日本語を書く)もので、その「かのように」の数だけいろんな表記が発明されてきたということなのだろう。いずれの議論も話としてはおもしろいがどうにも引っかかるのは、漢字が読めることになっているからかもしれない。カナモジ運動もローマ字運動も潰えた。他方で日本語独自の筆記機械は浸透せずいまだにQWERTYキーボード+ローマ字入力+漢字かな変換で書いている。どうしてか読める文字で書こうということにはならないらしい。

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3月9日

昼ご飯は簡単に済ませようと思って商店街にあるテイクアウト専門の吉野屋で焼肉丼を買って帰ったのだが、しょっぱくて食べられず、肉をほとんど残してご飯だけ食べた。こんなにしょっぱいものだったか。

夜中、ジムに行った。20分走って、1時間トレーニングする。あまりに寒かったので帰りはコンビニで手袋を買って、LUUPに乗って帰った。

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3月8日

夜中から朝まで黒嵜さんと電話。『非美学』のゲラを渡していて、序論と第1章についてコメントしてもらう。彼のコメントのしかたは独特で、読むプロセスにおいて強いられる負荷と、あとでそれが回収されることによる報酬のリズム、キャッシュとそのリフレッシュのリズムを実況するように話してくれる。それが乱れるのは、負荷の宛先に不信が生まれたり、断言がこれまでの話のパッケージとしてなされているのか、これからの話のためのとりあえずの置き石としてなされているのかわからなくなったりするときだ。そういうリズムはなかなか自分で書きながらコントロールできるものではない。校正からの指摘でかえってどういうフレームに定位してなおしていくべきか迷子になっていたのでとても助かった。友達の話、ふたりでやりたいことの話。続きはまた来週と約束する。

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