11月22日

日記の私家版のデザインを八木幤二郎くんに頼んだら引き受けてくれて、早速打ち合わせをすることになった。湘南新宿ラインで新宿まで行って、小田急線に乗り換えて下北沢で降りる。ふたりとも煙草を吸うので喫煙可のカフェを指定してもらった。去年初めて彼と話したときに、本をマニ車的なものとして、つまり背表紙が筒状になった円環的な構造で作ることに興味があるということを言っていたのを憶えていて、僕が日記本でやりたいことに通じるところがあると思っていた。赤字が直接自分に返ってくる初めての企画なので怖いところもあるが、自主制作で小部数発行だからこその思い切ったデザインの本になるといい。それに本文だけならここにすべてあるのだ。彼がヴィルヌーヴ『メッセージ』の文字の話をして、僕がその原作のテッド・チャン「あなたの人生の物語」ではヘプタポッドの円環的な身体構造と時間認識の相関が説明されていることを話したり、そういう概念的な話と具体的なものの話が高速で行ったり来たりして楽しかった。久々にそういう、物を作るための話をしているという感覚があった。

外に出ると雨で、もう3時くらいで、どこか展示にでも寄って帰ろうと思っていたが、そうしてラッシュに巻き込まれることを考えると憂鬱でやめてしまった。来た道を戻る。電車から街を人が歩いているのを見られるのは都心の特権だと思った。高いビルの上の方が雨に煙って隠れていた。例えば新幹線に乗っていると、何もないが家と田んぼだけがあるような、表に一切人影がない景色が延々と続く。ああいう場所から僕は来たのだと思った。人影はないが、統計的にはおそらく多数派であり、高速で通過されることでその無個性を圧縮されたような場所。

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カテゴリー: 日記