日記の続き#15

妻、という言葉を飲み込むタイミングを逸したホルモンみたいにもてあましているのだが(いちど事務的な電話を受けてそれは妻が、とか言っているのを彼女は目を丸くして見ていた)、とにかく妻が、急にキックボクシングを始めた。そういう突拍子もないところがある。昨年の大晦日に僕がRIZINの配信チケットを買って見ていると、結局彼女も8時間ぐらいずっと熱心に見ていて、いつの間にかいろいろ調べてサバットというフランスのキックボクシングみたいなやつの教室に通い始めて、そこは毎回体育館を借りてやっているので好きなときに練習ができないと言って別のムエタイ主体のキックボクシングジムにも通い始めた。グローブとかボクシングシューズとか、マウスピースとかがどんどん届いて、練習用のパンチングミットまで届いた。結婚もびっくりだがそのうえ妻のミット持ちをすることになるなんて。誰よりも気安い関係でもあるが、バイトの初日でたまたま一緒に新人研修を受けているみたいな、互いに対する無知が岸としてある吊り橋効果みたいな、不思議な関係だなと思う。