日記の続き#145

八月の30年——28歳

年の終わりに博論を出す。学振DC1がなくなった年でもあって、バイトしながら博論書くのは嫌だなと思っていたが、給料がなくなる春にちょうどコロナが来たので働かずに済んだ。個人事業主向けの100万円の持続化給付金をもらって、利息が実質ゼロの救済制度でもう100万円借りて、それで1年間食いつなげたのだ。お金を借りるのは面白い経験だった。申請書を出すと、事業で使っている通帳やら収入の証明やらを持って日本政策金融公庫に来られよという手紙が来て、それらを持って関内にある支店まで徒歩で行った。スーツを着て髪を整えて結婚指輪を着けた若い男に出迎えられて、パテーションで区切られた机に案内された。どういう「事業」をしているのかと聞かれたので、雑誌に原稿を書いたり本を出したり大学で喋ったりしていると言った。どうして「融資」が必要なのかと聞かれたので、コロナで仕事が減ったからですと言うと、ウチは事業で必要なお金を貸す場であって、生活費を出す場ではないのだと言いながらも100万円貸してくれた。僕がもともと申請していたのは200万円だったのだがそれは貯金と事業規模が小さすぎて無理だということで、肩を落として歩いて帰った。でも翌週に全額振り込まれたときは嬉しかった。それでなんとかかんとか博論も書けた。