日記の続き#269

新宿で大和田俊と待ち合わせる。奥さんは元気かと聞かれたので、数日前から先に帰省していると言うと、そういうのってムズくないかと聞くので、ムズいですよ、僕が一緒に帰れない強い理由がないことは向こうもわかっているわけだからと笑って言った。彼はそういうのめっちゃ気になるんだよな、それが上手くできるひとがいるっていうことが、と言いながら甲州街道を東に降って行った。

彼が世界堂に寄りたいというので着いていくことにする。ドローイングを始めたいそうで、どうしてかと聞くと自分の仕事が何なのかわからなくなったからだと言うので、そうでしょうねと言って笑った。適度に安っぽいくすんだグレーの紙をまとめたパッドを見つけて、彼がそのB4版を、僕は机に置いておくメモ帳にしようと思ってB5版を買った。大晦日に関わらず世界堂は大盛況だった。

いつものようにエジンバラに入る。彼は帰省のためにコロナの抗原検査キットを使ったようで、そこにあった「6回混ぜてください」というインストラクションの「6回」という数字が気になったらしかった。統計に向けてやらされているということですね、とか、その6回は冷凍食品を500ワットで6分温めろという指示とは違いますね、こっちはおいしさのピークに合わせているわけだから、とか、話に角度を当てがっていく。液が赤くなるまで混ぜろというのとは違いますねと言うと、うん、それだったら「親切」だからねと言った。病院で検査するときに看護師は6回混ぜなきゃとは思ってないでしょうねと言うと、そう、検査というフォーマルなものが通常職能としての経験則でこなされていて、それを非常事態で麻薬の注射みたいに人々がインフォーマルにやろうとすると、5回とか10回とか人間に優しい数字でなく「6回」みたいな変な数が出てくるのだ、別にそれにことさら文句を言いたいわけでもないが、そういうことがあるということが気になるのだと言った。彼と話しているとマインスイーパーをやっているような気分になる。当たりをつけて爆弾を囲い込むのだ。結局「6回」について2時間くらい喋っていた。

彼のところに友人から家にご飯を食べにこないかという連絡があって、僕の知り合いでもあったのでくっついていくことにした。新大久保のインド食品店——ちょうど昨日引用した日記にも出てきた店だ——でマトンビリヤニ、サモサチャート、ローストチキンを買ってタクシーに乗って、知らない街で降りた。みんなで紅白を見ているともう10時過ぎだったので、明日早く羽田に行かなきゃいけないのでと言って先に帰らせてもらった。コンビニでどん兵衛を買って帰って、お湯を入れて待つあいだに年が明けた。