日記の続き#270

早起きして荷造りをして羽田に向かう。蒲田から海のほうへ折り返して、大きいマンションのあいだを縫っていく。ドアには個別性がないがベランダにはあると気づく。荷物を預けてコーヒーを飲みながらiPhoneで日記の下書きをした。米子空港まで車で迎えに来てもらって、妻の実家でおせちを食べた。花と鳥で対になった軸のかかった床の間に伊勢海老の木彫が置かれていて、畳に敷かれた赤い絨毯のうえに朱塗りの膳が4つ並んでいる。なんだか公家みたいな正月だねと妻に言うと、久しぶりに集まったから張り切っているのだと言った。400年前のものらしいお屠蘇に口を付けて、田作りや黒豆をつまんでから膳を下げて、ちゃぶ台に重箱を広げる。喪中とのことで年賀状が出せなかったが、うちの両親が先年は大変お世話になったと申しておりましたと言う。直前でコロナになって来れなくなった姉夫婦のぶんおせちがたくさん余ったので、僕があとで食べますと言って別の箱に詰め替えて、祖父がかつて住んでいたマンションの部屋に移ってやっと荷解をした。親からの言づてをして、余ったおせちを引き受けて、これはどういう正月だろう、真心と形式性が骨絡みになっていると考えながら、敷いた布団のうえでストレッチをした。