1月26日ver.2

深夜、お腹が減って、夜中でも開いているいちばん近所の店が松のやで、その松のやに行った。とんかつ定食の食券を買って水を注いで席について、これから食べる豚がいかに優れた豚であるかを宣伝する店内放送を聴きながら番号で呼ばれるのを待っていた。

壁にはこれもまたこれから食べる豚がいかに優れた豚であるかを宣伝するポスターが貼られており、店を見渡すと、松屋グループの廃油が飛行機の燃料に使われている旨を知らせるポスターも貼られていた。なんと年間で東京大阪間を238回飛ぶ量の廃油が提供されていて、それは「FRY to FLY Project」と呼ばれているらしい。久しく見ない愉快なニュースに元気が出た。ピンチョン的なユーモアというか。豚を揚げる。飛行機を飛ばす。なんだっていいのだ。

去年から突然、イセザキモールのキャッチには居酒屋、ホストクラブ、中国系マッサージ、風俗、ガールズバーに加えて、コンカフェの店員が並ぶようになった。こんな街ではコンカフェは続かないだろうと思っていたが、ベンチコートの季節になってもまだチラシを配り続けている。コンセプトもなにもないだろうと思っていたのだが。

18で大阪に出て、夜に街を歩くのはとても新鮮な経験だった。中崎町、お初天神、兎我野、夜になってもたくさんひとがいる梅田の東側のそのあたりをひとりでよく歩いていた。朝まで開いている喫茶店もあった。キャッチをひとりやり過ごすごとに大人になったような気がしていた。

イセザキモールの天敵は夕日である。関内駅から一直線に西南に伸びるその商店街の先端にちょうど太陽が沈むので、4時頃になるとやりきれないほどまぶしい西日に貫かれる歩行者と、それに気づく様子もなく逆光で黒いシルエットになっている歩行者に二分される。夕日といえば山に沈むものだったが、ここではそういうことでもない。

ベローチェの2階席の正面は大きい窓になっていて、道を挟んで目の前の関内駅に電車が滑り込んでくるのが見える。とつぜん店内が明るくなって目を上げると、窓を横切る京浜東北線の車体に小さい太陽のかたちがくっきり丸く浮かび上がり、反射光をこちらにダイレクトに投げかけている。16時25分。この季節のその時間だけ、夕日、京浜東北線、ベローチェの2階席が対称な位置を取るのだ。額に手をかざす歩行者たちと背中合わせで同じ光に貫かれ、一瞬にして意識が戸外に染み出していく。

曽根さんの《Perfect Moment》というプロジェクトの話を思い出す。ある遊園地の、あらゆる遊具のいちばんの瞬間がすべて完璧に一致する瞬間を収める映画を制作するプロジェクトで、その制作の様子が一連のラフなドローイングで描かれており、まだ実際の映画は作られていない。一方でそれを「まだ」というのも変な話だし、他方でドローイングとして割り切って作られているわけでもない。それは両立する。その、スペルミスだらけの英語の書き込みがなされたドローイングのなかで、ディレクターである曽根さんはたしか、したたかに酔っ払っていて、女の子に気を取られたりして、完璧な瞬間が刻々と迫るなかみんなに急かされていた。