3月10日

 煙草を吸いにベランダに出ると、陽の光で熱せられた黒いビニールのサンダルが裸足に気持ちいい。夏は火傷するくらいになるだろうなと思う。サンダル自体が溶けてしまうかもしれない。窓を開けると黒い塊がベランダの床に張り付いている。とりあえず煙草を吸おうと思うがサンダルがなく、そうしてやっとそれがサンダルだったものだと気づく。さすがに溶けたりはしないと思うが、非現実的なものの現実感と現実的なものの非現実感が追いかけ合うようなマジック・リアリズムが夏にはある。思われる夏はそれがどんな夏であれリアルだけど、実際に生きられる夏はいつもアンリアルだ。

 ベランダから戻ってエディタを開いて日付を確認したとき、3月11日とあって、あれ、3月9日までしか日記を書いていないんじゃないかと、昼寝から起きて夕方なのか朝なのかわからなくなるときみたいに混乱した。10日を飛ばしてしまったのではと焦ったが9日の日記を書いたのが昨日だと確認して今「10日」を書けばいいのだと安心した。3月11日と見て何か今日のことを書かなきゃと反射的に思ったのかもしれない。でも今日はこれから始まるし、書くべきことは大して起こらないだろう。今日は髪を切りに行って、それから友達とご飯を食べに行く。それだけだ。

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カテゴリー: 日記