5月11日

 朝名古屋まで新幹線で行って在来線に乗り換えて春日井で降りて展示を見て、名古屋に戻って7時には新横浜に着いた。名古屋では喫煙所まで出て煙草を吸っただけで何もしなかった。昼は春日井で見つけたインド・ネパール料理屋でカレーのセットを食べた。しょっぱいだけであんまり美味しくなかったが、誰もいない薄暗い店から外の景色を見ているだけで結構満足した。○と書いて「えん」と読む居酒屋とか、ミカドという潰れたパチンコ屋とか、そういうあらゆる日本の地方の街にありそうなものがある。名古屋は(春日井市は名古屋市ではないがともかく)外から開いてるか閉まってるかわからない薄暗い店が多い気がする。本山ゆかりの個展「コインはふたつあるから鳴る」は素晴らしくて、それもあって横浜にとんぼ帰りすることに躊躇はなかった。絵じゃないものが絵になるときの驚きがあって、それが今まで描かれていなかったものを描く(風景画の誕生みたいな)ということではなく、そっけない素材(アクリル板にアクリル絵の具、布、ロープ)とタイトルそのままのあっけない画題(花、石、山、果物)によって生み出されていてマジカルな感じがした。アクリル板の裏に塗られた絵の具の掠れに透ける壁、内側に薄い綿を挟んでミシンで描かれた線が生み出すシワ、ひと筆書き的に目でなぞるロープの線のしなりをいつの間にか絵として見ている。腰より低いところに作られた横木の上に載せ壁に直接立てかけられた板の裏で絵の具は滴り、いずれも釘で留められた布とロープはたわんでいる。「画鋲を抜いて剥がれたらそれは写真」という文章を書いたことがあるが、絵画は架けることと落ちることのあいだにある気がする。床に置いて描いたものを壁に架けるポロック、ラウシェンバーグ的な迫り上がりの感覚とも違って、本山の作品は架けたそばからもうわずかに落ちている。

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カテゴリー: 日記