6月26日

 哲学の入門書には、すでにある程度知っている人はこの章を飛ばしても構わないとか、こういう順番で読むこともできるとか、そういうガイドが最初に書いてあることがある。これをありがたいと思ったことがいちどもない。内容だけ紹介してくれれば最初から読みつつこっちで判断するのだ。ちょっと昔だと逆に、読者諸賢も承知のことと思うがとか、そういう書き方が多かったと思う。どっちが偉そうかというと、読者と文章を勝手にレベル分けするほうが偉そうな態度に決まっている。まあ入門書だからと言われればそうかもしれないのだけど、「まあ入門書だから」くらいのことでしかないんだったら書き手の心を守るためにもやめたほうがいいと思う。概して、文章を楽して書こうとすると読者とのあいだに〈私−あなた〉のフレームを持ち込みたくなってしまう。それを全くなしで書けるかということは措くとしても、それに寄りかかると書き手を何か凡庸なものにスタックさせるし、知らないうちにそれは本当に大事な〈私−問題〉から目を逸らす方便になっているかもしれない。これについてはいくら気をつけても気をつけすぎることはない。

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カテゴリー: 日記