11月25日

「それはもちろんメキシコではなく、心のなかにある。今日、弁護士たちから二人の離婚の知らせを受けたとき、僕はいつものようにクアウナワクにいた。身から出た錆だ。別の知らせも受け取った。イギリスはメキシコとの国交を断絶し、駐メキシコ領事は全員——つまりイギリス人は——本国に召還されるのだという。領事たちはたいがい親切で善良で、僕はただその名をおとしめている。僕は彼らと一緒に帰るまいと思う。帰るにしても、イギリスという故郷へは帰らないつもりだ。それで、夜中、トマリンまでプリマスを飛ばして、〈サロン・オフェリア〉にいるトスカラ人の闘鶏士セルバンテスに会いに行ったのだ。そしてそこからバリアンの〈ファロリート〉にやって来て、朝の四時半、バー脇の小部屋で、オーチャス、それからメスカルを飲みながら、いつか泊まったときに失敬してきたベーヤ・ビスタの便箋にこれを書いている。墓場にも等しい領事館の便箋は見るだけでつらくなりそうな気がしたのだ。肉体的な苦痛ならよく知っている。だがこれは、君の心が死んでいく感覚はなによりも苦しい。いま、むしろ何やら穏やかな心持ちがするのは、今宵、僕の心が本当に死んでしまったからだろうか。」
マルカム・ラウリー『火山の下』斎藤兆史監訳、渡辺暁+山崎暁子訳、白水社、2023年、47頁

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カテゴリー: 日記