6月8日

しばらく前から腰が痛くて、ストレッチをしたりフォームローラーでほぐしたりしてもどうにもよくならず、夕方にふと鍼灸に行くことを思い立った。「横浜 鍼」と調べてみると評判のよさそうな店が横浜駅と高島駅のあいだあたりにあり、ネット予約のスケジュールを見ると6時からの枠がまだ空いていたので院長を指名して予約し、着替えて外に出た。小雨が降り始めていて傘を差すのが面倒なので路地から商店街に入ろうとすると、たいていドアが開いたままになっていて暗い居間が見通せる家の軒先にある、金魚がいる大きな水槽の縁に脚に紐を括ったミルクティーのような色のミミズクが止まっていた。家の中が写らない角度に移動してiPhoneを向けるとミミズクは切り株の断面のような平らな顔をこちらに向けた。鍼療院は雑居ビルの3階にあり、院長が船好きなのか横浜だからなのか、船の舵の形をした看板が待合の狭い壁に掛けられている。だんだん暗くなる奥の方に向かって右に左に不規則に施術室が3つほど並んでいるらしい。問診票を書いていると「ああすごい! 目が開いてる! 暑い!」という女性の声が聞こえてきた。施術室に通され、着替えてくださいと言われる。ポリエステルの半ズボンと、ピンク地に白の水玉模様のノースリーブシャツがあり、着て座っていると院長が入ってきて、上は男の人は裸ですと言われ、すみませんと言って脱いだ。施術が始まって、話し好きな人のようだと思ったので、こちらのことを聞かれるよりはと思ってインタビューのつもりでこういうのはどうやって勉強するのかというところから、いろいろ聞いていった。彼が出た学校はもとは占いの学校でもあって、当時多くの鍼灸師が助産婦になったり、西洋医療の現場での補助的な役割に押し込められつつあったのを危惧した学長が、西洋医学の向こうを張るようなものにせねばならんと奮起して鍼灸師の養成に力を入れるようになったらしい。最初の授業で「心臓はどこにあるか」と聞かれ、「胸の左側です」と言うと、「全身だ。血管が縮んだり広がったりすればこそ血は巡るのだ」と言われたらしい。そこから4年間、陰陽五行の勉強から非公式の「研修」まで、なんだかわからないまま必死でやったようだ。施術中から体が火照ってきて、終わって体を起こすと、たしかに目がよく開いて、頭が軽く、息が吸いやすくなっている。腰も痛くない。帰って妻とご飯を食べながら上のような話をして、そんなにすごい人なのかと聞かれたので猿にも鍼を打ったことがあるらしいよと言うとそれでどうなったのかと聞くので、嘘だよと言った。

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カテゴリー: 日記