10月30日

横国。授業の前にトイレに行くと、知らない言葉で話す声が聞こえる。いちばん奥の個室で誰か静かに電話しているようだった。硬質な声がタイルに反響して中東のラジオのように聞こえた。いま、礼拝だったのかもしれないと思って調べると、昨日の昼の礼拝の時刻は2時25分で、トイレに行ったあたりの時間だった。

最近はまっているキレートレモンのクエン酸が増量されたものをイセザキモールのファミマで買って店先で飲んでいると、松葉杖の男がいまにも倒れそうに歩いていた。松葉杖は片足が利く状態で、両方の杖を一緒に前後させることによって歩くものだが、彼の両足は後ろに引きずられつま先が地面に引っかかり、杖を片方ずつわずかに動かしている。福富町のコリアンタウンのほうからやってくるタクシーに向かって片手を挙げる。一方通行の狭い道で後ろがつっかえているからか運転手は降りず、通りがかりの何人かが一緒になって彼を車に載せていた。問題は、彼はどうやってここにやってきたのかということだ。僕にとって彼はとつぜん現れたかのようであったが、彼はどこかからここにやってきたのだ。しかしどうやって?

家の前の道を家の側に渡るためにちらっと後ろを伺うと、道の反対側に電話しながら歩いている女が見えた。同時に、くぐもった赤ん坊の泣き声が聞こえ、彼女が抱いているのかと思うと、僕と彼女のあいだをすーっと後ろから白いアルファードが通り抜けていって、助手席の窓がかすかに開いているのが目に入った。赤ん坊の観念がすり潰される。赤ん坊はこちらにいるのだ。

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カテゴリー: 日記