11月8日

めずらしくちゃんと夜寝た状態で京都に行くことができて、早めに家を出て新幹線の待合で日記を書き終えて、車内で授業で扱う論文を読む。隣の席の男が電話を受けて席を立って、前のポケットに挟んでいた僕のカフェラテを落とした。どうするのかなと思ったらすみませんと言ってそのままデッキのほうへ行ってしまい、静かに呆然とした。ティッシュで床を拭いてカップとともにゴミ箱に捨てて席に戻って、僕はなんと言うべきなのだろうかと考える。しばらくすると男が帰ってきて、すみませんでしたと言って席に戻る。僕は無視をした。というか、「いえいえ」も、「あなたがこぼしたのに拭かないのはおかしいですよ」も、出てこなかったのだ。思えば僕は何十年も他人に怒った経験がなく、口頭で怒るという言葉の回路が死んでいるんだろう。あなたは自分でこぼしておいて、電話を優先して出て行った、それでこの話はもう終わっており、そのあと謝ろうが、僕が怒鳴ってどやしつけようが、あなたがそういう人間だという事実は変わらないのだ、だから僕はもうあなたが存在しないものとして振る舞うのだと、頭のなかで言葉がぐるぐるする。授業を終えて、ちゃんと寝ていてまだ元気があったので、久しぶりに京都駅の英國屋に行ってしばらく作業をしてから帰った。帰りは空いたひかりに乗って、やはりひかりがいいのだと思った。

投稿日:
カテゴリー: 日記