日記の続き#262

大戸屋でカキフライを食べて、夕方のイセザキモールを歩いていると、前を歩いていたおじいさんが転んだ。それはつまずいたとか、めまいがして膝から崩れたとかそういう感じではなく、本来であれば「遊び」として処理されるような微細なズレが適切にフィードバックされず、本人もいつから転び始めたのかわからず、気づいたら手に負えなくなっていた不均衡に静かに降参するように尻もちをついていた。座り込んでいる彼の正面にしゃがんで大丈夫ですかと聞くと、二度目に彼は頷いた。目を覗き込むと焦点は定まっていて、ちゃんと力がある。顔色も悪くないし、デニムジャケットにセーターにニット帽をかぶっていて、それは自分で選んだ服に見えたし、まあ大丈夫だろうと思った。彼の表情に僕に対するかすかな怯えが浮かび上がってきた。いつの間にか転んでいて男に話しかけられている。もういちど聞くと強く頷くので、立たせるのはやりすぎだと思ったのか、彼のまなざしにいたたまれなくなったのか、立ち去ることにした。(2021年12月24日

今年の同じ日の話。コンビニに煙草を買いに出る。レジで前に並んだおじいさんが、何か払い込みの手続きをしている。サンダルを履いた裸足は竜田揚げのように白いものに覆われている。彼が立ち去ろうと横を向くと、自分で金を入れるレジから、お釣りの数千円が出たままになっているのが見えた。彼の肩をそっと叩いてからレジを指さして、「お釣りですよ」と一度目は普通の声で、二度目は大きめの声で言った。彼は僕をちらっと見てお札を取って出て行った。その全体として機械的なやりとりにレジの一部になったみたいだと思った。彼の硬いツイードの上着のごわごわした感覚が手に残っていた。