8月9日

十和田のホテルで目が覚める。朝食会場に降りると席が埋まってしまっていて、20分ほども待ってやっと食べることができた。ビュッフェ形式なのだが6つに区切られたお皿にぜんぶで6つのおかずやサラダをいれていくだけで、自由が偽装されている。フリーなのはオプションだけだ(納豆をつけるか否か、ご飯をミニカレーにするか否か……)。悠さんと十和田市現代美術館の展示を見て、八戸の市場を見ている永田さんに合流して、それぞれ魚屋の海鮮丼とみんなで1枚板うにを買って分け合って食べた。いくつか妻にお土産を買って市場内のヤマトの営業所から家に送って、次の市場に移っている永田さんに追いつくと、3時で閉まってしまったようでみんなで八戸市美術館を見ることにする。十和田は小部屋が乱立する、塩田千春的なオールオーバーなインスタレーションに合わせた美術館という方針が明確に表れているのに対して、八戸はなんだかモダンな広大さの余地を見せようとして結果としてシュリンクして見えるどっちつかずの美術館に見えた。「ジャイアントルーム」もぜんぜんジャイアントではなく、せいぜい馬車道のゴールドジムのウェイトエリアと同じくらいだ。そしてマシンやラックを彫刻だとすれば、後者のほうが平均滞在時間も長く、ひとつひとつの作品への没入度も高いし、監視員の作品理解も深い。といったことを考えているあいだみんなでカフェに移ってお喋りしていて、夕方に東京に帰る悠さんを八戸駅まで送った。ひとりでACACまで帰らねばならない。昨日の山道はもうこりごりなので高速に乗るルートで帰ろうと思ったら入口がETC専用で入れず、下道で隣のインターチェンジに行こうとするのだがどうしてもナビもGoogleマップもさっきの入口から高速に乗せようとしてきて、なんども迷いながらようやく高速に乗る。片側2車線になったり1車線になったり、60キロ制限になったり80キロ制限になったり、どこが何の入口で何に対してお金を払ったのかわからなくなりながらしつこく粘る夏の夕闇を振り切って北上する。私のハイビームに照らされる反射板だけが『もののけ姫』の木霊のように合図してくれる。バックミラーとサイドミラーの中はまったくの暗闇で、背中にぴったり無が張り付いているようだった。音楽をかけたいが停まる場所もなく、潜水するようにひと息で青森市街に出る。宿に戻ってテラスに寝そべる。星は地元のほうがきれいだなと思ったが、それはさんざん自転車を漕ぎながら見た夜空を想定しているからで、しばらく見ているとどんどん星で空が埋め尽くされていった。これなら15分くらいで流れ星も見えそうだと思って煙草を吸いながら見ていると、本当にきっかり15分でひとつ見えた。

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カテゴリー: 日記