2月19日

夜から神保町で講座。いつも準備をするドトールにいると、細いおばさんがトレーを机に置いた弾みでアイスコーヒーをすべて床にこぼし、その隣に座っている別のおばさんの席の床にまで広がった。ふたりめのおばさんは即座に立ち上がり、必死に謝る最初のおばさんをなだめながら食器返却棚に布巾を探しに行き、無かったので店員を呼んでくると1階に降りていった。そのあいだ細いおばさんは紙ナプキンで床に広がった氷を集めている。ふたりの席は壁を背にしてまっすぐこちらを向いており、それはとても演劇的な場面に見えた。上がってきた店員は事情を確認してもういちど降り、モップと新たなアイスコーヒーのグラスをそれぞれの手に持って上がってくる。その様子があまりに危なっかしかったので、印象が演劇的なものに書き換えられたのかもしれない。気付くとふたりめのおばさんのほうはいなくなっており、細いおばさんは肘をついて、机に寝かせた携帯を真上からのぞき込むようにうなだれて見ていた。

夜中、いちど寝たのだがすぐ起きてしまう。自分が関わる業界はどこも他所から調達したもので自分を隠すインチキばかりだと怒りが湧いてきて、僕は本当のことだけを書くために日記をやっているんだと気付いた。かなり不器用なやりかただが。

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カテゴリー: 日記